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農家の国民健康保険料は高く、納入通知書を見て手が止まったことはありませんか。国民健康保険には、会社員の健康保険にある労使折半も、扶養という仕組みもありません。
shoei私も経理を自分で見ているので、前年の所得や支出で保険料や税金が決まる重さは毎年のように感じます。
この記事では、千葉でお米を育てる現役の農業経営者であり、日商簿記2級も持つ私が国保の仕組みについてわかりやすく解説します。制度を知って、大切な資金を守り、持続可能な農業経営をしていきましょう。
- 農家の国民健康保険料が会社員より高くなりやすい3つの理由
- 令和8年度から4区分になった計算の仕組みと、賦課限度額113万円
- 青色申告・軽減・減免を使って負担を下げる5つの方法
- 節税しても国民健康保険料は下がらない支出と、その理由


太智昭栄
Shoei Tachi
- 農業経営者(2022年〜千葉県東部でお米を生産)
- 日商簿記2級・3級FP技能士取得
- 全国の農家の役に立つ補助金・融資情報を発信
国民健康保険料とは|社会保険料との違い


国民健康保険は市区町村が運営し、社会保険に入っていない人の医療費を支える制度です。一方の社会保険は勤め先を通じて加入し、保険料の半分を会社が負担してくれる仕組みです。この2つの違いを知っておくと、なぜ農家の保険料が重く感じるのかが見えやすくなります。



まずは国民健康保険の全体像を、会社員が入る社会保険との比較で確認していきましょう。
| 比較項目 | 社会保険(健康保険) | 国民健康保険(国保) |
| おもな加入者 | 会社員・公務員など、勤め先に雇われて働く人 | 農家・自営業・フリーランス・退職した人など |
| 運営するところ | 健康保険組合や協会けんぽ | 市区町村(都道府県)や国民健康保険組合 |
| 保険料の決まり方 | 標準報酬月額(給与の額面)×保険料率 | 前年の所得と世帯の加入人数など |
| 保険料の負担 | 労使折半(会社と本人で半分ずつ) | 全額自己負担(世帯主が世帯全員分を納付) |
| 扶養の制度 | あり(家族が増えても保険料は原則変わらない) | なし(加入する家族の人数分だけ保険料が加わる) |
| おもな給付 | 医療給付のほか、傷病手当金や出産手当金がある | 医療給付や出産育児一時金など。傷病手当金は原則なし |
| 納め方 | 給与から天引きされ、勤め先を通じて納付 | 市区町村へ直接納付(「国民健康保険税」と呼ぶ自治体も) |
国民健康保険は社会保険に入っていない人が加入する制度
国民健康保険は、会社の健康保険に入っていない人が加入する市区町村が運営する公的な医療保険です。農業や商店などの自営業者、フリーランス、退職した人や年金を受け取る人が対象です。
日本には「国民皆保険」という決まりがあり、住む人は全員どれかの医療保険に入ります。そのため個人で農業を営んでいる人は、原則として国民健康保険に加入することになります。
社会保険との違いは「労使折半」と「扶養」
いちばん大きな違いは、保険料を勤め先と半分ずつ分け合う仕組みがあるかどうかです。社会保険は労使折半ですが、国民健康保険は世帯主が世帯全員分を全額負担する決まりです。もうひとつは扶養の有無で、社会保険は家族が増えても保険料は原則として変わりません。
国民健康保険には扶養がないため、加入する家族の人数分だけ均等割が積み上がります。
農家の国民健康保険料が高いと感じる3つの理由


農家の国民健康保険料が高いと感じる理由は制度の作りが会社員の健康保険と違うからです。国民健康保険は市区町村が運営し、前年の所得と世帯の人数をもとに保険料を計算します。そのため所得がそのまま保険料に響き、家族が多い世帯ほど負担が積み上がっていきます。
うちは従業員が祖父母だけの家族経営なので、社会保険の話題は毎年のように出てきます。まずは会社員との違いを3つに分けて、高くなる仕組みを具体的に確認していきましょう。
【理由①】給与所得控除がなく、経費を引いた所得がそのまま反映される
国民健康保険は、売上から必要経費を引いた農業所得をもとに計算されます。同じ国民健康保険でも、給与所得者は給与所得控除を引いた後の金額が使われる点が違います。なお会社員の健康保険料は額面の給与(標準報酬月額)で決まるため、単純な比較はできません。
それでも経費の計上が甘いと所得が膨らみ、その分だけ保険料が上がる点は変わりません。
【理由②】会社員のような労使折半がない
会社員の健康保険料は、本人と勤め先が半分ずつ負担する労使折半の形になっています。反対に国民健康保険は、世帯主が世帯全員分の保険料をすべて負担する仕組みになっています。したがって同じ保険料の総額でも、実際に財布から出ていく金額は農家のほうが重くなります。
さらに国民健康保険には扶養という考え方がありませんので、家族の人数分だけ均等割が加わります。
【理由③】前年の所得で決まるため不作の年に効いてくる
国民健康保険料は前年の所得をもとに計算され、当年の収入は反映されない仕組みです。
米価が高かった年の翌年は、収入が落ちていても前年基準の高い保険料が請求されます。
収入が年で乱高下する米農家にとって、支払いのタイミングがずれる点は大きな負担です。だからこそ資金繰り表に保険料を先に組み込み、支払い月を見える化しておく必要があります。
国民健康保険料の計算の仕組み|令和8年度から4区分に


国民健康保険料は、所得に応じた所得割と、加入者数に応じた均等割を足して計算します。自治体によっては、1世帯あたり定額でかかる平等割という区分を加えているところもあります。そのうえ令和8年度からは子ども・子育て支援納付金分が新設され、区分が4つに増えました。
従来の医療分・支援金分・介護分に1区分が加わり、上限額の合計も引き上げられています。料率や均等割の金額は自治体ごとに違うため、正確な金額はお住まいの市区町村で確認してください。
| 区分 | 賦課限度額 | 対象になる人 |
| 医療分 | 67万円 | 国民健康保険の加入者全員 |
| 後期高齢者支援金分 | 26万円 | 国民健康保険の加入者全員 |
| 介護分 | 17万円 | 40歳から64歳までの加入者 |
| 子ども・子育て支援納付金分 | 3万円 | 国民健康保険の加入者全員(18歳到達年度末までの子どもは均等割が全額軽減) |
| 合計 | 113万円 | 令和7年度の109万円から引き上げ |
所得割の計算に使うのは基礎控除後の所得
所得割は、前年の総所得金額等から基礎控除額を引いた金額に料率をかけて計算します。ここでの基礎控除額は住民税と同じ基準で、前年の合計所得金額が2,400万円以下なら43万円です。所得税の基礎控除は令和7年分から引き上げられましたが、住民税と国民健康保険は43万円のままです。
令和8年度の賦課限度額は合計113万円
保険料には上限があり、令和8年度の賦課限度額は合計113万円と定められています。令和8年度から子ども・子育て支援納付金分が加わり、上限は109万円から113万円になりました。内訳は医療分67万円、支援金分26万円、介護分17万円、子ども分3万円という区分です。
所得が大きい経営体ほど上限に近づくため、限度額そのものの改定は見逃せない情報です。
農家の国民健康保険料を下げる5つの方法


農家の国民健康保険料を下げる方法は、所得を正しく圧縮する道と、軽減や減免を使う道です。というのも所得割は前年の所得で決まり、均等割は軽減の判定でしか動かないからです。



私は表計算ソフトで毎月の損益を追い、決算の前に経費の漏れがないか確認しています。
以下の5つは、いずれも制度の中で認められた正規の手続きだけで進められる方法です。5つのうち気になる項目から順番に、次回の確定申告の準備と合わせて取りかかってください。
①青色申告特別控除65万円を使い切る
まず取り組みたいのが、青色申告特別控除を上限の65万円まで使い切るという方法です。青色申告特別控除は事業所得の計算で引かれるため、国民健康保険料も一緒に下がります。
65万円の控除を受けるには、複式簿記の記帳に加えて電子申告か電子帳簿保存が必要です。クラウド会計ソフトを使えば、記帳から電子申告までを一本の流れで進めることができます。
🔗農家の青色申告とクラウド会計ソフトの選び方|65万円控除を最大活用
②経費と減価償却を漏れなく計上する
次に、農業に使った支出と農機具の減価償却費を漏れなく計上できているか点検します。というのも所得は売上から必要経費を引いた金額であり、経費の漏れは所得の水増しだからです。軽トラの燃料費や修繕費、通信費などは、事業で使った割合を按分して経費に入れられます。



領収書を月ごとにまとめる習慣をつけると、決算の直前に慌てる場面が確実に減っていきます。
③家族への専従者給与を検討する
青色事業専従者給与を出すと、事業主の所得が減って給与所得控除の分だけ世帯の所得も下がります。ただし自治体の案内では、軽減の判定のときに専従者給与を事業主の所得へ割り戻すとされています。つまり所得割には効いても、7割・5割・2割の軽減判定には反映されない扱いになります。
支給には事前の届出と、労務の実態に見合う金額であることが要件として求められます。
④軽減の判定に当てはまるか確認する
世帯の所得が一定額以下なら、均等割と平等割が7割・5割・2割のいずれかで軽減されます。7割軽減の基準額は43万円で、給与・年金所得のある人が2人以上いる世帯は1人につき10万円が加算されます。5割と2割は、この額にさらに加入者数に応じた金額が上乗せされる仕組みです。
軽減は原則として申請が不要ですが、所得の申告をしないと軽減の判定は受けられません。所得がゼロだった年でも申告だけは済ませ、判定の対象から外れないようにしてください。



この情報は、お住まいの市区町村の公式ウェブサイトで確認できます。
⑤所得が大きく減った年は減免を申請する
災害や病気、事業の休廃止などで所得が大きく減った年は、減免の制度を確認してください。減免の要件と割合は自治体ごとに異なり、前年比で所得が何割減ったかで判断されます。見落としやすいのは、減免は申請しないかぎり適用されないという決まりになっている点です。
納期限との関係で締切が決まっている自治体もあるため、早めに窓口へ相談してください。
節税と国民健康保険料は別物|下がらない支出に注意


節税になる支出であっても、国民健康保険料の計算では差し引かれないものがあります。というのも所得割の計算に使うのは総所得金額等であり、基礎控除しか引かれないからです。所得税では効く控除が国民健康保険料では効かないという、ずれが生まれることになります。



私も簿記を学ぶまでは、所得税と保険料が同じ計算で動くものだと思い込んでいました。節税と保険料を分けて考えるようにすると、判断を誤らずに済むようになります。
iDeCoと小規模企業共済は国民健康保険料には効かない
iDeCoや小規模企業共済の掛金は、所得税と住民税を下げる効果が確かにあります。掛金は所得控除であり、国民健康保険料の計算では総所得金額等から差し引かれません。したがって老後資金の準備としては有効でも、保険料を下げる目的には向いていません。生命保険料控除や社会保険料控除も同じ扱いなので、期待の方向を間違えないでください。
支払った保険料は社会保険料控除として申告する
支払った国民健康保険料は、確定申告のときに社会保険料控除として所得から差し引けます。世帯主が家族の分もまとめて納めている場合は、納めた保険料の全額を控除の対象にできます。納付額は自治体から届く年間納付額のお知らせで確認でき、証明書の添付は原則不要です。保険料そのものは減りませんが、所得税と住民税が下がって手元の資金は確実に残ります。
法人化して社会保険に切り替えるという選択肢


所得が大きくなってきた農家には、法人化して社会保険へ切り替えるという道もあります。法人になると健康保険と厚生年金が原則として強制適用となり、国民健康保険からは抜けます。健康保険料は役員報酬の金額で決まるため、均等割のように人数で積み上がることはありません。
一方で保険料の半分は会社負担となり、法人と個人の両方から見た総額で考える必要があります。うちも法人で経営していますが、判断には売上と所得の水準を必ずセットで見てきました。
法人は健康保険と厚生年金が強制適用になる
法人の事業所は、従業員が代表者1人だけでも健康保険と厚生年金の適用対象になります。一方で個人経営の農業は、働く人が何人いても強制適用の業種には含まれていない扱いです。だからこそ社会保険へ移りたい場合は、法人化がもっとも現実的な入口のひとつになります。扶養の制度も使えるようになり、配偶者や子どもの保険料負担が変わる場合があります。
法人化はコストとセットで判断する
法人化には設立費用がかかり、赤字の年でも法人住民税の均等割を納める必要があります。そのうえ社会保険料の会社負担分が固定費として毎月発生し、資金繰りに影響を与えます。つまり損得の分かれ目は経営ごとに違い、一般論の記事だけでは答えが出ない領域になります。だからこそ自分の売上と所得を当てはめて、法人化に詳しい専門家へ相談する方法があります。
まとめ|農家の国民健康保険料は仕組みを知れば下げ幅が見える
農家の国民健康保険料が高いのは、労使折半も扶養の仕組みもない制度の作りが原因です。しかし所得の圧縮と軽減・減免の活用によって、負担を下げる余地は確かに残されています。
特に青色申告特別控除65万円は、所得税と保険料の両方に効く数少ない選択肢になります。所得が大きくなってきたら、法人化して社会保険へ移る道も比較の対象に入れてください。まずは前年の確定申告書を開き、控除と経費の抜けがないか確認するところから始めましょう。
- 農家の国民健康保険料は、労使折半も扶養の仕組みもないため会社員より重くなりやすい
- 保険料は前年の所得で決まるため、収入が落ちた年ほど負担が大きく感じられる
- 令和8年度から子ども・子育て支援納付金分が加わり、賦課限度額は合計113万円になった
- 青色申告特別控除65万円は事業所得の計算で引かれるため、保険料も一緒に下がる
- iDeCoや小規模企業共済の掛金は所得控除なので、保険料の計算には反映されない
- 軽減は所得の申告が前提、減免は申請が前提。どちらも自分から動く必要がある
料率・均等割額・軽減や減免の要件は自治体ごとに異なり、制度も改定されるため、最新の情報はお住まいの市区町村の公式サイトでご確認ください。
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