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農地は後継者にまとめて渡したいけれど、遺言書を書くのは大げさだと感じていませんか。
実は農地は、遺言書がないまま相続が起きると相続人全員の共有財産になってしまいます。私も就農して3年目に、農地の名義と面積を一覧にする作業をはじめ、書類の多さに驚きました。この記事では千葉でお米を育てる現役の農業経営者であり、日商簿記2級も持つ私が遺言書の書き方を解説します。
遺言書は死の準備ではなく、経営を次の代へ確実に渡すための引き継ぎ書だと考えています。ぜひ最後まで読んで、備えてください。
- 農家に遺言書が必要な理由と、農地が細かく分かれてしまう仕組み
- 自筆証書遺言と公正証書遺言の費用・手間・無効になるリスクの違い
- 農地と農機具を後継者へまとめて渡すための5つのステップ
- 農業委員会の許可や遺留分など、農家だけが踏む3つの落とし穴

太智昭栄
Shoei Tachi
- 農業経営者(2022年〜千葉県東部でお米を生産)
- 日商簿記2級・3級FP技能士取得
- 全国の農家の役に立つ補助金・融資情報を発信
🔗 【農地を相続】税金対策は生命保険?納税資金を準備する仕組みとは
農家の遺言書が必要な理由|農地は何もしないと分かれていく
農家に遺言書が必要な最大の理由は、農地が法定相続によって細かく分かれてしまうからです。
民法は、どの田んぼをだれが引き継ぐかまでは決めてくれません。したがって相続人全員で遺産分割協議を開き、全員の合意を取りつける必要があるのです。
うちも従業員は祖父母だけの小さな経営で、長い話し合いに時間を割く余裕はありません。遺言書があれば、経営に欠かせない農地と農機具を後継者へまとめて渡すことができます。
shoei私も最初は「まだ元気なのに遺言書なんて」と思っていました。でも農地の名義を調べ始めた日に、これは経営の引き継ぎ書なんだと考えが変わりました。
①遺産分割協議とは|遺言書がないと相続人全員が困る
遺産分割協議とは、亡くなった人の財産の分け方を、相続人全員で話し合って決める手続きのことです。遺言書がない相続では、相続人全員の署名と押印がそろわないと、農地を後継者ひとりの名義にまとめることができません。というのも、遺産分割協議は相続人のうち1人でも反対すれば成立しない仕組みだからです。
遠方に住む兄弟や、農業に関わってこなかった親族の同意も同じように必要になります。話し合いがまとまらないまま作付けの時期を迎えると、経営そのものが止まってしまいます。
②農地が分かれると規模も補助金も崩れる
農地が複数の相続人に分かれてしまうと、経営面積が落ちて機械の稼働効率も下がります。しかも補助金や融資の中には、一定の経営規模や認定農業者であることを要件とするものがあります。つまり農地の分散は、収量だけでなく資金調達の入口まで細くしてしまう深刻な出来事です。
だからこそ、農地は分けずに1人へ集めるという方針を先に決めておく価値があります。
🔗【2026年最新】農家の後継者必見!事業承継の進め方を5ステップで解説
農家の遺言書の書き方は2種類|自筆証書と公正証書を比べる


農家の遺言書の書き方は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つから選ぶのが現実的です。遺言には秘密証書遺言という方式もありますが、検認が必要で使う人はごくわずかです。
検認(けんにん)とは、家庭裁判所が遺言書の形状や内容を確認し、偽造や変造を防ぐための手続きです。遺言が有効か無効かを判断する手続きではない点に注意。選ぶ基準は費用の安さではなく、農地の名義変更まで確実に届くかどうかに置いてください。
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
| 作成方法 | 財産目録以外を全文手書き | 公証人が内容を文章にする |
| 証人 | 不要 | 2名必要 |
| 費用 | 0円(保管制度は3,900円) | 財産の価額に応じた手数料+遺言加算13,000円 |
| 検認 | 必要(保管制度の利用で不要) | 不要 |
| 保管場所 | 自宅または法務局 | 公証役場 |
①自筆証書遺言は費用が安いが方式が厳格
自筆証書遺言は紙とペンがあれば作れますが、財産目録以外の全文を自分で手書きしなければ無効になります。作成した日付と氏名を書き、署名の下に押印することも民法968条が定める要件になります。パソコンで作った財産目録を添付する場合は、目録の各ページに署名と押印が必要で、両面に記載があるときは両面とも必要になります。
方式を欠いた遺言書は全部が無効になるため、手軽さの裏に大きな落とし穴があります。
②法務局の保管制度を使うと検認が不要になる
自筆証書遺言書保管制度を使うと、書いた遺言書を法務局が原本のまま預かってくれます。手数料は1件につき3,900円で、収入印紙を申請書に貼って納める仕組みになっています。保管制度を利用した自筆証書遺言は、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になります。
ただし申請は本人が法務局へ出向く必要があり、代理人に任せることは認められていません。
③公正証書遺言は手数料がかかるが無効になりにくい
公正証書遺言は、公証人と証人2名の前で内容を伝えて作ってもらう方式の遺言書です。手数料は公証人手数料令で決まり、2025年10月1日の改正後は、財産の価額が1,000万円超3,000万円以下で26,000円です。さらに財産の合計が1億円以下のときは、遺言加算として13,000円が上乗せされます。遺言書の原本は公証役場に保管されるため、紛失や書き換えの心配がない点も大きな利点です。
農家の遺言書の書き方【STEP1〜5】


農家の遺言書づくりは、財産の棚卸しから保管までを5つのステップで進めると迷いません。順番を守る理由は、渡し方を決める前に遺留分の金額が見えていないと組み直しになるからです。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に法律が保障している最低限の取り分のことを指します。
兄弟姉妹には遺留分がないため、相続人の顔ぶれによって備え方が変わります。私は経理も自分で回しているので、数字を先に固めてから文章を書く順番に助けられました。所要期間の目安は、資料集めから公証役場での作成まで2か月ほど見ておくと安心です。
STEP1|農地と農機具をすべて洗い出す
最初に、農地の登記事項証明書と固定資産税の課税明細書を集めて、一覧表にまとめます。農機具や倉庫、農協への出資金、借入金の残高も同じ表に並べておくと全体像が見えます。というのも、負債を含めて把握しないと、後継者に渡す財産の実質額がずれるからです。



私はクラウド会計に固定資産台帳を登録し、毎年度更新するように管理してます。
STEP2|だれに何を渡すかを1つずつ決める
次に、農地と農機具は後継者へまとめ、預貯金や自宅を他の相続人へ振り分けていきます。農地は筆ごとに地番と地目を書き、どの相続人に相続させるかを明確に特定してください。「農地一式」のような書き方では対象が定まらず、名義変更の場面で手続きが止まります。
なお預貯金は口座ごとに金融機関名と支店名まで書くと、相続人の負担が軽くなります。
STEP3|遺留分を計算して代償金を用意する
続いて、後継者以外の相続人に保障されている遺留分の金額を、あらかじめ計算しておきます。遺留分は農地そのものではなく金銭で請求されるため、現金がないと農地を売る事態になります。そのため生命保険や共済を使い、代償金にあてる現金を先に確保する方法がよく選ばれます。
計算の結果として足りない金額が見えたら、保険の見直しまでセットで検討してみてください。
STEP4|自筆証書か公正証書かを選んで作成する
資料と方針がそろったら、自筆証書遺言か公正証書遺言かを選び、実際に文書を作成します。農地が複数の市町村にまたがる場合や相続人が多い場合は、公正証書遺言が向いています。
公証人への相談は無料なので、まず必要書類を持って最寄りの公証役場へ問い合わせてください。公正証書遺言では証人2名が必要ですが、推定相続人と受遺者、その配偶者と直系血族、未成年者は証人になれません。
STEP5|遺言執行者を指定して保管まで決める
最後に遺言執行者を指定し、遺言書をどこに保管するかまで決めて一連の手続きを終えます。遺言執行者とは、遺言の内容どおりに名義変更や払い戻しを進める役割を負う人のことです。
遺言執行者は後継者本人でも構いませんし、司法書士などの専門家に頼むこともできます。自筆証書遺言なら法務局の保管制度、公正証書遺言なら公証役場が原本を守ってくれます。
農地を遺言で渡すときの3つの落とし穴


農地を遺言で渡すときは、農地法と相続手続きが絡む3つの落とし穴に注意してください。一般的な相続の解説記事では触れられない部分で、農家だけが引っかかる論点になります。
実際に私も、農地の名義変更が普通の宅地と同じ手続きだと思い込んでいた時期がありました。確認を怠ると、せっかく書いた遺言書があっても農地が動かないという結果になりかねません。
次に挙げる3つの落とし穴は、遺言書を書く前の段階で必ず確認しておきたい内容になります。



農地は普通の土地と同じ感覚で扱えません。私も農業委員会という言葉が出てきて、はじめて農地の特殊さを実感しました。
①相続人以外への特定遺贈は農業委員会の許可がいる
農地を相続人以外の人へ特定遺贈する場合は、農地法3条にもとづく許可が必要になります。農業委員会の許可が下りなければ、遺言書があっても農地の名義は相手に移らないままです。
一方で包括遺贈や、相続人に対する特定遺贈のときは、許可ではなく農業委員会への届出で足ります。つまり甥や長男の妻へ農地を渡したいときほど、事前の確認が欠かせないということです。
②遺留分は農地ではなく金銭で請求される
2019年7月1日以後に開始した相続では、遺留分の請求は金銭を求める権利に変わりました。したがって農地の一部を渡して解決するという調整は、相手の同意がないと成立しません。
請求できる期間は、相続開始と侵害を知った時から1年間、相続開始の時から10年間と民法1048条が定めています。後継者に現金が残らない設計だと、支払いのために農地を手放す流れになってしまいます。
③相続後の届出と登記を忘れると過料がある
農地を相続した人は、農地法3条の3にもとづき、権利を取得したことを知った時からおおむね10か月以内に農業委員会へ届け出る義務を負います。届出を怠ったり虚偽の届出をしたりした場合には、10万円以下の過料に処せられます。また相続登記も2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内が期限で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。



遺言書に手続きのメモを添えておくと、相続人が期限を逃す危険を減らすことができます。
遺言書と一緒に準備したい納税資金と生活資金


遺言書を書き終えたら、次は相続税の納税資金と家族の生活資金の準備に進んでください。農地は評価額が大きくなりやすい一方で、そのままでは現金に換えにくい財産だからです。
納税資金が足りないと、後継者は農地を売るか借入をするかの二択に追い込まれてしまいます。私は経理を自分でやっている分、手元の現金が尽きる怖さを毎年の資金繰りで感じています。だからこそ、遺言書を書く時期に合わせてお金の設計まで見ておく価値があると考えています。
①相続税の納税資金は現金で確保しておく
相続税は原則として現金一括で納めるため、納税資金は現金で持っておく必要があります。延納や物納の制度もありますが、要件が厳しく、いつでも使えるわけではありません。農地には相続税の納税猶予という制度もありますが、農業を続けることが条件になります。そのうえ猶予を受けた後に農業をやめると、猶予されていた税額と利子税を納めることになります。制度に頼り切らず、生命保険などで現金を用意する二段構えが安全だと私は見ています。
②遺される家族の生活費を数字にしておく
納税資金と同じくらい大切なのが、遺される配偶者や祖父母の生活費の見通しになります。農業収入は年によって上下するため、家計の必要額を先に数字にしておくと判断が早まります。年金の見込み額、住居費、医療費を書き出せば、不足する金額がはっきり見えてきます。
自分だけで生活費の計画を組み立てるのが難しいときは、お金の専門家に相談する方法もあります。
まとめ|農家の遺言書は経営を次の代へ渡す引き継ぎ書
農家の遺言書の書き方は、財産の洗い出しから保管までの5つのステップで整理できます。遺言書を書くことは、家族を疑う行為ではなく、後継者が困らないように道を作る作業です。農地を分けない方針を文書にしておけば、残された家族が長い協議で消耗せずに済みます。
農地には農地法が関わるため、一般的な相続の解説だけでは足りない場面がどうしても出てきます。まずは農地の登記事項証明書と課税明細書を集め、財産の一覧表を作るところから始めてください。
- 農家の遺言書がないと、農地は相続人全員の遺産分割協議を経ないと動かせない
- 自筆証書遺言は財産目録以外を全文手書きし、日付・氏名・押印まで整えて初めて有効になる
- 法務局の保管制度は手数料3,900円で、家庭裁判所の検認が不要になる
- 公正証書遺言は財産の価額に応じた手数料に加え、1億円以下なら遺言加算13,000円がかかる
- 相続人以外への特定遺贈は、農地法3条の許可が下りないと農地が移らない
- 遺留分は金銭で請求されるため、代償金にあてる現金を先に確保しておく(兄弟姉妹に遺留分はない)
制度の内容や手数料は変わることがあるため、最新の情報は法務省・法務局および日本公証人連合会の公式サイトでご確認ください。
\ 相談は無料です /
遺留分の代償金や相続税の納税資金を、いくら用意すればいいのか分からない。
お金の設計だけでも、専門家と一緒に数字にしておくと判断が早まります。










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