「法人化したら、社会保険に入らなければいけないの…?」
個人で農業をしていた頃は、国民健康保険や国民年金に加入していたのに、法人の場合、社会保険に切り替わることを知らない農家は少なくありません。そして実はここに、農業ならではの落とし穴があるのです。
この記事では、農業経営4年目の私が、法人の社会保険の加入義務と手続きを整理します。
- 農業法人が社会保険に強制加入する理由
- 個人事業との決定的な違い
- 加入手続きの5ステップ
- 入り忘れたときのリスク

太智昭栄
Shoei Tachi
- 農業経営者(2022年〜千葉県北東部でお米を生産)
- 日商簿記2級・3級FP技能士取得
- 全国の農家の役に立つ補助金・融資情報を発信
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法人になると社会保険は「強制加入」

社会保険とは、健康保険と厚生年金保険を指します。法人は、従業員がいてもいなくても、この2つへの加入が法律で義務づけられています。つまり、社長ひとりの「一人法人」であっても、原則として加入しなければなりません。
「うちは家族経営だから関係ない」とはならない点に注意が必要です。なお、ここでいう社長への報酬がゼロの場合などは例外となることもありますが、役員報酬を払って経営している通常のケースでは加入が必要だと考えておきましょう。
個人事業との決定的な違いとは|農業の「適用除外」
個人事業の農業は、たとえ常に5人以上の従業員を雇っていても、健康保険・厚生年金の強制加入させられることはありません。農林水産業が「非適用業種」に当たるためです。
| 経営形態 | 健康保険・厚生年金 |
|---|---|
| 個人事業(農業) | 5人以上でも強制ではない(任意) |
| 法人 | 人数・業種に関わらず強制加入 |
だからこそ、法人化したときに「急に社会保険の負担が増えた」と感じる農家が多いのです。法人化を検討中の方は、農家の法人化のメリット・デメリットと判断基準で、こうしたコスト面もあわせて確認しておきましょう。
混同しやすい「社会保険」と「労働保険」の違い
従業員を雇うと、もう一つ「労働保険」という制度も関わってきます。
| 区分 | 含まれる保険 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 社会保険 | 健康保険・厚生年金 | 役員・従業員の医療と年金 |
| 労働保険 | 労災保険・雇用保険 | 従業員の労災と失業に備える |
ポイントは、労災保険・雇用保険は「従業員」のための制度で、社長などの役員は原則対象外という点です。また個人経営の農業は、常時5人未満なら労働保険も任意(暫定任意適用)とされる場合があります。法人で人を雇うなら、健康保険・厚生年金に加えて労働保険の手続きも必要になると覚えておきましょう。
法人化して従業員を雇うと、「健康保険・厚生年金(年金事務所)」と「労災保険・雇用保険(労働基準監督署・ハローワーク)」の2系統の手続きが発生します。窓口が分かれるため、何をどこに出すのかを最初に整理しておくと、抜け漏れを防げます。
社会保険加入のための手続き5ステップ
加入手続きは、設立後すみやかに行う必要があります。流れを見ていきます。
STEP1|提出先と期限を確認する
社会保険の加入手続きの窓口は、管轄の年金事務所(日本年金機構)です。会社が加入対象(適用事業所)になった日から5日以内に届け出るのが原則です。設立直後は手続きが立て込むため、早めの準備が安心です。
STEP2|「新規適用届」を提出する
会社として社会保険に加入するための届出が、健康保険・厚生年金保険 新規適用届です。あわせて、発行から90日以内の登記簿謄本などの添付書類を用意します。
STEP3|「被保険者資格取得届」を提出する
社長や従業員など、加入する一人ひとりについて被保険者資格取得届を提出します。報酬月額をもとに、保険料の基準となる「標準報酬月額」が決まります。
STEP4|扶養家族がいれば届出を追加する
配偶者や子など、扶養する家族がいる場合は、被扶養者(異動)届も提出します。家族で農業を営むケースでは、ここを忘れないようにしましょう。
STEP5|毎月の保険料をおさめる
加入後は、毎月の保険料を会社と本人で折半して納めます。給与計算のたびに天引き・納付が発生するため、経理の仕組みづくりが欠かせません。
目安を知ろう!社会保険料はいくら払うの?
負担感をつかむために、保険料のおおよその水準を押さえておきましょう。保険料は、給与をもとに決まる「標準報酬月額」に保険料率をかけて計算します。
- 厚生年金保険料率:18.3%(会社と本人で折半し、各9.15%)
- 健康保険料率:全国平均9.9%(協会けんぽの場合、都道府県で異なる)
つまり、給与のおよそ3割前後が社会保険料となり、それを会社と本人で半分ずつ負担するイメージです。たとえば月給30万円なら、会社負担と本人負担を合わせて月9万円前後が目安になります。決して小さくない固定費なので、法人化の前に織り込んでおくことが大切です。
役員報酬を高く設定するほど社会保険料も高くなるため、報酬設計と保険料はワンセットで考える必要があります。法人化するときは、税金だけでなく社会保険の会社負担分まで含めて試算しておくと「想定より資金が残らない」という事態を防げます。
「法人化は本当に得なのか」を無料で試算してもらおう

社会保険の負担を知り、「法人化はかえって高くつくのでは」と不安になった方もいるかもしれません。ですが、法人化が得かどうかは、売上・所得・家族構成によって一人ひとり変わります。ネットの一般論をいくら読んでも、「自分の場合の答え」は出てきません。
そんなときは、法人化に強い税理士に直接相談するのが近道です。税理士法人経営サポートプラスアルファの無料相談で、自分の場合の法人化メリットを試算してもらうと、社会保険も含めた損得を数字で示してもらえます。
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入り忘れ・手続き漏れをした場合の3つのリスク
社会保険の手続きを怠ると、後で大きな負担になることがあります。
- 年金事務所の調査で加入漏れが判明すると、さかのぼって保険料を請求される
- 従業員の年金・医療の権利に影響し、信頼を損なう
- 未加入は法律違反であり、罰則の対象になり得る
とくに怖いのが、さかのぼっての請求です。数年分の保険料を一度に求められると、会社にとって大きな打撃になります。加入は義務であると同時に、後々のトラブルを避けるための備えでもあります。「忙しくて後回し」が、もっとも危険です。設立とほぼ同時に着手するのが鉄則です。
家族で働く農業法人は、ここ注意!

家族経営から法人化した農家がとくに迷うのが、一緒に働く家族の扱いです。
法人で家族に給与を払い、その家族が常時働いているなら、原則として家族も健康保険・厚生年金の加入対象になります。個人事業の頃に「専従者給与」として処理していた家族への支払いも、法人化後は通常の給与として、社会保険や源泉徴収の対象として扱う必要があります。個人時代の家族給与の考え方は農家の専従者給与で節税する方法で整理できます。
私の法人でも祖父母に働いてもらっていますが「家族だから」で曖昧に処理せず、給与・保険・税の手続きをきちんと分けて考えるようになりました。ここを整理しておくと、後の経理がぐっと楽になります。
負担だけじゃない|社会保険に入る3つのメリット
保険料の負担に目が向きがちですが、社会保険への加入には働く人にとっての利点もあります。
- 将来の年金が手厚くなる:国民年金だけの場合より、厚生年金が上乗せされる
- 健康保険の給付が充実:けがや病気で働けないときの傷病手当金などが受けられる
- 家族を扶養に入れられる:要件を満たせば、配偶者などの保険料負担を抑えられる
個人事業の国民年金・国民健康保険にはない保障が得られる点は、法人化の隠れたメリットです。コストとして捉えるだけでなく、経営者と家族の生活を守る仕組みとして前向きに整えていきましょう。
まとめ:農業法人の社会保険は「設立直後にすぐ手続き」
農業法人の社会保険で押さえるべきは、次の3点です。
- 法人は社長ひとりでも強制加入(個人の農業は任意との差が大きい)
- 設立後5日以内に年金事務所へ新規適用届・資格取得届を出す
- 入り忘れはさかのぼり請求などのリスクがある
毎月の保険料の天引きや納付、給与計算は、手作業だとミスが起きやすい分野です。標準報酬月額の管理や保険料の折半計算は、人数が増えるほど煩雑になります。
そこで頼りになるのが会計・給与のクラウドサービスです。マネーフォワードクラウドで給与計算と社会保険の事務をまとめて効率化すると、天引き計算や帳簿への反映を自動化でき、農作業に集中する時間を確保できます。法人の複雑なバックオフィスを一元管理したい農家に向いています。
また、設立直後にやるべき経理全体の流れは農業法人の経理|設立直後に整える7つの基本で解説しています。手続きの抜け漏れが不安なら、社会保険労務士のサポートを受けながら整えるのも安心です。
なお本記事は一般的な情報提供であり、加入要件や手続きは個別事情で変わります。具体的な手続きは、年金事務所・社会保険労務士などの専門窓口に確認することをおすすめします。


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