祖父母や親が元気なうちに農地を引き継ぎたいけど「贈与税でごっそり持っていかれるのでは…」と不安を抱えてる農家は多いのではないでしょうか。実は農地には、農業を続けることを条件に贈与税の納税を先送りできる特例があるんです。
- 生前贈与と相続の違い
- 農地の贈与税の基本(2つの課税方式)
- 贈与税の納税猶予の仕組みと要件
- 忘れがちな農業委員会の許可
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太智昭栄
Shoei Tachi
- 農業経営者(2022年〜千葉県北東部でお米を生産)
- 日商簿記2級・3級FP技能士取得
- 全国の農家の役に立つ補助金・融資情報を発信
農地の生前贈与とは?相続との違いを解説
生前贈与(せいぜんぞうよ)とは、生きてるうちに財産を無償で渡すこと。亡くなってから引きつぐ相続と違い、「誰に・いつ渡すか」を自分の意思で決められるのが特長。後継者を早く確定させたい農家にとって、有力な選択肢になります。生前贈与と相続の違いについて見てみましょう。
| 項目 | 生前贈与 | 相続 |
|---|---|---|
| タイミング | 生きてるうちに自分の意思で実行 | 死亡したときに発生 |
| かかる税金 | 贈与税 | 相続税 |
| 農地の手続き | 農業委員会の許可が必要 | 農業委員会への届出が必要 |
| メリット | 後継者を早く確定できる | 基礎控除が大きい |
相続のほうが基礎控除は大きいものの、「誰に継がせるか」で家族がもめるリスクを避けたいなら、生前贈与で道筋をつけておく意味があります。家族で意見が割れやすい点は祖父母と農業がうまくいかない3つの原因でも触れています。
贈与税とは?農地を引き継ぐときの基本

農地を生前に渡すと、原則として受け取った側(受贈者)に贈与税がかかります。課税の方式は2つあり、どちらを使うかで税額が大きく変わります。
①暦年課税|毎年110万円まで非課税
暦年課税(れきねんかぜい)は、1年間に受けた贈与の合計から110万円の基礎控除を引いて課税する方式です。年110万円以内の贈与なら贈与税はかかりません。
たとえば評価額300万円の農地を1年でまとめて贈与すると、基礎控除を引いた190万円が課税対象です。一般税率では190万円×10%=19万円が贈与税の目安になります。
②相続時精算課税|2,500万円まで贈与税ゼロ
相続時精算課税は累計2,500万円までの特別控除が使える方式です。まとまった面積の農地を一度に渡したいときに向きます。しかし、この方式を選ぶと同じ贈与者からの①暦年課税には戻せません。
農地の引き継ぎ方法3選

生前贈与でもっとも知っておきたいのが、納税猶予(のうぜいゆうよ)の特例です。納税猶予とは、税金が消えるのではなく、一定の条件を満たす間は支払いを待ってもらえる仕組みを指します。ここでは3つの選択肢を整理します。
| 方法 | 向いているケース | ポイント |
|---|---|---|
| 暦年課税 | 少しずつ渡したい | 年110万円まで非課税。ただし相続前7年分は加算 |
| 相続時精算課税 | まとめて渡したい | 累計2,500万円まで贈与税ゼロ。最終的に相続で精算 |
| 贈与税の納税猶予 | 農業を継ぐ後継者へ一括で渡す | 一括贈与+営農継続で猶予、死亡で免除 |
農業をしっかり継いでいく後継者がいるなら、納税猶予の効果は大きくなります。
納税猶予の仕組み|一括贈与+農業継続で猶予される
農業をする人が農地の全部(採草放牧地・準農地は3分の2以上)を、推定相続人の1人に与えた場合、相続人がその農地で農業を続ける限り、贈与税の納税が猶予されます。
- 18歳以上で推定相続人の1人であること
- 贈与後すみやかに農業経営を行うこと
- 贈与を受けた日まで引き続き3年以上、農業に従事していたこと
- 認定農業者など効率的・安定的な経営の基準を満たすこと
細かな要件は農業委員会の証明が必要なため、事前確認が欠かせません。
免除と相続税への切り替え
この特例の大きな利点は出口にあります。贈与者または受贈者のどちらかが亡くなったとき、猶予されていた贈与税は免除されます。ただし贈与者が亡くなった場合は、その農地を相続で取得したものとみなされ、今度は相続税の対象になります。このとき農業を続けていれば、相続税の納税猶予へ切り替えることができます。
贈与から相続まで、農業を続ける限り税の負担を抑えられる設計です。この「贈与から相続へ」の流れをうまくつなげられるかが、農地を次の世代まで守れるかの分かれ目になります。
見落とせない打ち切りリスク
メリットの大きい制度ですが、途中でやめると一気に負担が戻ってくる3点に注意してください。
- 3年ごとに「継続届出書」の提出が必要
- 贈与を受けた農地を売却・転用・耕作放棄すると猶予が打ち切られる
- 打ち切り時は、猶予されていた贈与税に利子税を加えて納める
つまり「農業を続ける覚悟」が前提の制度です。節税になるかどうかは要件を満たす場合に限られるため、必ず最新の条件を確認してください。
忘れてはいけない農業委員会の「許可」
税金とあわせて必ず押さえたいのが、農地法第3条の許可です。農地を生前贈与する場合、相続と違って、農業委員会(または都道府県知事)の許可を得なければなりません。
許可を受けずに行った贈与は法律上無効となり、登記もできません。「税金の話だけ進めて、農地法の手続きを忘れていた」とならないよう、税理士への相談と並行して、早い段階で地元の農業委員会に確認しておきましょう。承継後の節税策を広く知りたい方は、担い手農家が使える税制優遇・特例まとめもあわせてご覧ください。
農地を生前贈与するときの4つの手続き
実際の進め方は、税の手続きと農地法が並行して進みます。順番に見ていきましょう。
- 農業委員会へ許可申請:農地の所在地の農業委員会へ許可を申請。受贈者の農業従事状況などが審査されます。
- 贈与契約書の作成:誰に・どの農地を贈与するかを書面で明確化。口約束で済ませないことが大切です。
- 所有権移転登記:許可後、法務局で名義を受贈者へ変更。登録免許税は固定資産税評価額の2%が原則です。
- 翌年の贈与税の申告:贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に申告します。
税務署・法務局・農業委員会と、相談先が分かれます。早めに全体像を押さえ、抜け漏れなく進めることが、結果的に近道になります。
贈与を受けたらどうする?|会計ソフトで記帳を整える

贈与を受けて農業を引き継いだら、自分が経営者として確定申告をする立場になります。とくに、農業を継続していることを示すためにも、日々の記帳をきちんと残しておくことが重要です。3年ごとの継続届出のときにも、営農の実態がわかる帳簿は心強い裏づけになります。
会計ソフトの選び方は農家の青色申告とクラウド会計ソフトの選び方で解説しています。
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まとめ|農地の生前贈与は「納税猶予」と「許可」をセットで
農地を生前贈与するなら、押さえるべきは次の3点です。
- 贈与税の課税方式(暦年課税か相続時精算課税か)を選ぶ
- 農業を続けるなら贈与税の納税猶予の特例を検討する
- 贈与には農業委員会の許可(農地法第3条)が必要
引き継いだ後は、記帳と確定申告を整えることが、納税猶予を守りながら経営を安定させる土台になります。
慣れない経理に不安がある方は、クラウド会計ソフトで記帳・申告をかんたんに始めるのも一つの方法です。簿記の知識がなくても収支管理、確定申告書づくりが対応できます。
先代から受け継ぐ大切な農地です。焦らず、確実に進めていきましょう。
※本記事は一般的な情報提供であり、贈与税・相続税の判断は個別事情で大きく変わります。実際の手続きは、税理士・お住まいの農業委員会などの専門窓口に必ず確認することをおすすめします。


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