「お米を作っても、本当に利益が残るのか」——新規就農を考えるとき、誰もが一度は不安になりますよね。種代・肥料代・農薬代・農機代・水利費・燃料費まで、米作りの経費は想像以上に多岐にわたります。把握できていなければ、何年続けても自分の経営が黒字か赤字かさえ見えません。
この記事では、千葉県で農業歴4年の私が、農林水産省の最新統計(令和6年産・10a当たり全算入生産費13万2,112円)と当社の実数値をもとに、米農家1反あたりのコスト内訳を整理します。
読み終えるころには、自分の経営に置きかえて「どこを削れば利益が残るのか」が具体的にイメージできるはずです。

太智昭栄
Shoei Tachi
- 農業経営者(2022年〜千葉県北東部でお米を生産)
- 日商簿記2級・3級FP技能士取得
- 全国の農家の役に立つ補助金・融資情報を発信
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米農家1反あたりコストの全体像|全国平均は13万2,112円

米農家の1反(10a)あたり経営コストは、地域・規模・農機所有の有無で大きく変動します。まずは公式統計と実務感覚の両方を押さえましょう。
農林水産省の最新統計|令和6年産10a当たり生産費
農林水産省「令和6年産 米生産費(個別経営体)」によると、10a当たりの資本利子・地代全額算入生産費(全算入生産費)は13万2,112円で、前年産より0.6%減少しました。一方、組織法人経営体では9万7,057円と、規模拡大による効率化が数字に表れています。
| 経営体 | 10a当たり全算入生産費 | 前年比 |
|---|---|---|
| 個別経営体(全国平均) | 13万2,112円 | △0.6% |
| 組織法人経営体 | 9万7,057円 | △2.4% |
TACHIFARMの実数値|現金支出ベースで12万円
当社の場合、支出ベースの主要コスト(種代・肥料・農薬・農機経費・水利費)を集計すると、1反あたり12万円でした。中でも燃料費が22,000円と割合が大きく、中東情勢への不安が続きます。
米農家のコストは固定費と変動費に分けて考える

コスト削減の第一歩は、費目を固定費と変動費に分類することです。同じ「1万円」でも、性質が違えば打ち手はまったく異なります。
固定費|農機・施設・地代
固定費とは、作付面積や収量に関わらず毎年ほぼ一定額が発生するコストです。
- 農機の減価償却費(トラクター・田植え機・コンバイン)
- 農機の車検・整備・保険料
- 農地の地代(借地の場合)
- 農業用倉庫・乾燥施設の維持費
変動費|資材・燃料・水利費
変動費は、作付面積や生産量に比例して増減するコストです。
- 種もみ・育苗資材
- 肥料(基肥・追肥)
- 農薬(除草剤・殺虫剤・殺菌剤)
- 農業用軽油・ガソリン
- 水利費・育苗用電気代
規模拡大で1反あたり固定費が下がる理由
農林水産省「令和6年産 米生産費」によると、組織法人経営体の10a当たり全算入生産費は9万7,057円で、個別経営体平均より約3万5,000円低くなっています。これは農機の減価償却費という大きな固定費を、広い面積で按分できるためです。
ただし、規模拡大は農地集約・人員確保・機械投資の3点セットが揃わないと逆に赤字化します。「面積さえ増やせば儲かる」と短絡しないようご注意ください。
1反あたりコストの内訳|費目別の詳細目安

ここからは費目ごとに、具体的な金額レンジを整理します。地域・栽培方式によって幅があるため、自経営の数字と突き合わせて読んでください。
種代・育苗費|3,000〜8,000円
慣行栽培(中苗)での種もみ使用量は、JA全農の栽培資料によると1反あたり3〜4kgが標準です(育苗箱20枚前後 × 乾籾140〜200g/箱)。種もみ単価が1kgあたり1,000〜2,000円なら、種代だけで3,000〜8,000円になります。
| 栽培方式 | 種もみ使用量/10a | 種代の目安 |
|---|---|---|
| 慣行(中苗) | 3〜4kg | 3,000〜8,000円 |
| 疎植・密播疎植 | 1.5〜2kg | 1,500〜4,000円 |
育苗資材(培土・床土・肥料)を加えると、合計で5,000〜10,000円が一般的な範囲です。認定種子を毎年更新することで、収量と品質の安定性が高まります。
肥料代|5,000〜10,000円
基肥と追肥を合わせた1反あたり施肥コストの目安は5,000〜10,000円です。土壌診断にもとづく適正施肥や、JA・農業法人でのまとめ買いで単価を下げられます。
農薬代|5,000〜8,000円
除草剤・殺虫剤・殺菌剤を合計した目安は5,000〜8,000円です。除草剤コストが最も大きいため、田植え後の深水管理で雑草発生を抑えるとコストを削減できます。
農機経費(減価償却+修理費)|15,000〜30,000円
トラクター・田植え機・コンバインを自己所有する場合、減価償却費と整備修理費を合計すると1反あたり15,000〜30,000円が目安です。米農家のコスト項目で最も大きな割合を占めます。
農機を所有せず作業を委託する場合、料金はJAや受託組織によって幅があります。地域の作業料金表を必ず確認してください。
燃料費|2,000〜5,000円
トラクター・田植え機・コンバインの稼働で消費する軽油・ガソリン代は、1反あたり2,000〜5,000円が目安です。農地条件や作業方法によって変動します。
水利費|2,000〜4,000円
土地改良区に支払う水利費は地域差が大きく、1反あたり2,000〜4,000円程度です。収穫量に関わらず支払い義務がある固定費なので、必ず資金計画に組み込みます。
その他|農業共済・JA組合費など
農業共済(NOSAI)掛金、JA組合費、農業用施設維持費なども忘れずに計上します。
主要費目を合計すると32,000〜65,000円
ここまでの主要費目を積み上げると、1反あたり32,000〜65,000円になります。これに農機費の上振れや自家労働費を加えると、農水省統計の13万円台に近づきます。
米農家の収入と損益分岐点|1反あたり利益を試算
コストを把握したら、収入と損益分岐点を必ずセットで計算します。
令和6年産米の相対取引価格|全銘柄平均22,700〜27,600円台
農林水産省が毎月公表する相対取引価格(全銘柄平均・玄米60kg)は、令和6年産で次のように推移しています。
| 月 | 全銘柄平均(円/60kg) |
|---|---|
| 令和6年9月 | 22,700 |
| 令和6年12月 | 24,665 |
| 令和7年3月 | 25,876 |
| 令和7年6月 | 27,613 |
| 令和7年8月 | 27,179 |
出典:農林水産省「令和6年産米の相対取引価格・数量について(令和7年8月)」
平年収量との組み合わせで収入を計算
農林水産省「令和6年産水稲の10a当たり平年収量」は全国平均で537kg(1.70mmふるい目幅)です。仮に60kg当たり25,000円で販売できた場合、収入は次のように計算できます。
537kg ÷ 60kg × 25,000円 = 約223,750円/10a
ここから1反あたりコスト13万円を差し引くと、粗利益は約9万円。自家労働費を別途計上すれば、実質利益はさらに圧縮されます。
「ただし米価は変動が大きい」という不安が浮かびます。直近2年は高騰局面ですが、令和3年産は60kg当たり1万2,000円台まで下落した実績があります。経営計画は楽観・標準・悲観の3シナリオで作成しましょう。
出典:農林水産省「令和6年産水稲の10a当たり平年収量について」
軽油引取税は2026年4月に大改正|現行は1L当たり15円
米農家にとって燃料費の管理は経営改善の重要ポイントです。ここで最新の制度改正を必ず押さえてください。
暫定税率廃止で税率が32.1円→15円に
令和8年(2026年)4月1日、軽油引取税の「当分の間税率(旧暫定税率)」が廃止され、税率は次のように変わりました。
| 期間 | 軽油引取税の税率 |
|---|---|
| 〜令和8年3月31日 | 32.1円/L |
| 令和8年4月1日〜 | 15円/L |
出典:東京都主税局「軽油引取税の当分の間税率(旧暫定税率)の廃止について」/群馬県「令和8年4月1日に軽油引取税のいわゆる暫定税率が廃止」
農業用免税軽油制度は令和9年3月31日まで延長
「税率が下がるなら免税制度はどうなるのか」という疑問が出ます。地方税法附則の改正により、農業・林業・鉄道・船舶(レジャー用を除く)に用いる軽油の免税措置は令和9年3月31日まで延長されています。
つまり現時点では、農業用軽油は引き続き免税対象であり、節税額は次のとおりです。
年間500L × 15円 = 7,500円/年の節税効果
税率改正前と比べると節税インパクトは縮小しましたが、申請手続きは引き続き有効です。
免税軽油の申請手順
申請は都道府県税務課の窓口で行います。
- 都道府県知事に申請し「免税軽油使用者証」の交付を受ける
- 使用予定数量・引取販売店を記載した申請書を提出し「免税証」の交付を受ける
- 指定の販売店で免税証を提示して軽油を購入する
「申請が面倒で諦める方も多い」と聞きますが、年7,500円でも10年続ければ7万5,000円の差です。書類は一度作れば毎年の更新は簡単なので、初年度の手間を惜しまないことが重要です。
ガソリンカードで燃料費を見える化|農繁期コストを月別に把握
農機の稼働は春(耕起・代かき・田植え)と秋(稲刈り・乾燥)に集中するため、燃料費もこの時期に偏ります。月別データを蓄積すれば、前年比較で経営改善の根拠が作れます。
ガソリンカード活用のメリット
ガソリンカードを利用すると、次のような効果があります。
- 給油明細が自動集計され、入力が短縮できる
- 燃料費が見える化される
- 給油時の現金管理が不要になる
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数字で経営を管理する|青色申告とコスト分析の習慣化
最後に、コスト管理を「単発の計算」で終わらせず、毎年の経営判断につなげる仕組みを紹介します。
青色申告の収支内訳書を1反単価に換算する
青色申告をしている農家は、決算書(または収支内訳書)に費目別の年間金額が並びます。これを作付面積で割れば、1反あたりコストが一目で算出できます。
| 費目 | 年間金額(例) | 作付面積 | 1反単価 |
|---|---|---|---|
| 肥料代 | 80,000円 | 10反 | 8,000円 |
| 農薬代 | 60,000円 | 10反 | 6,000円 |
| 燃料費 | 40,000円 | 10反 | 4,000円 |
前年比較で異常値を発見する
毎年同じフォーマットで集計すれば、肥料価格の高騰や農機修理費の急増といった異常値がすぐに発見できます。早期に気づけば、購入先の見直しや農機更新時期の調整など、打ち手を打てます。
「面倒で続かない」という方は、確定申告後の1日だけ集計時間を確保するルールにすると継続しやすくなります。
まとめ|米農家1反あたりコストを把握して経営改善を進めよう
この記事の要点を整理します。
- 10a当たり生産費は個別経営体13万2,112円/組織法人9万7,057円
- コストは固定費(農機・地代・施設)と変動費(資材・燃料・水利費)に分けて管理
- 令和6年産米の相対取引価格は全銘柄平均22,700〜27,600円台/60kgで推移
- 経費としても割合の大きい燃料費はガソリンカードで管理する
- 青色申告の決算書を1反単価に換算し、前年比較で異常値を早期発見する習慣をつける
まずは今年の決算書を開いて、費目別金額を作付面積で割ってみてください。数字で語れる経営への第一歩は、その15分から始まります。また、費用の中でも割合の大きい燃料費は高速情報協同組合のガソリンカードで見える化しておきましょう。
▼出典一覧
- 農林水産省「令和6年産 米生産費(個別経営体)」
- 農林水産省「令和6年産水稲の10a当たり平年収量について」
- 農林水産省「令和6年産米の相対取引価格・数量について(令和7年8月)」
- 東京都主税局「軽油引取税の当分の間税率(旧暫定税率)の廃止について」
- 群馬県「令和8年4月1日に軽油引取税のいわゆる暫定税率が廃止」
- 北海道庁「令和8年4月1日から軽油引取税の税率が変わります」
- 農林水産省「農業に使用する軽油引取税の免税」
- JA全農「水稲栽培ガイド」
本記事の情報は2026年5月時点の制度・統計を基に作成しています。最新情報は必ず農林水産省・都道府県税務課の公式サイトをご確認ください。


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