米農家の経営戦略として、今まさに動くべき時期が来ています。2026年の春、米の値段はかつてないほどの高値水準を維持しています。スーパーの棚では5kgのお米が4,500円を超え、消費者は「高すぎる」と感じている一方で、農家側には久しぶりの手応えがある——そんな状況ではないでしょうか。

「やっと報われた気がする」「この値段が続いてくれれば、経営が楽になる」そう思っている農家さんも多いはずです。私自身も同じ気持ちでした。でも、心の片隅にこんな不安も浮かんでいませんか。
「この米価、いつまで続くんだろう……」
じつは、この問いこそが今の米農家にとって最も重要な問いかけです。今が「稼ぎ時」であることは間違いありません。しかし、米価は市場の需給によって大きく揺れ動くもの。高値が続く今だからこそ、次の下落に備えた経営戦略を考えておく必要があります。
この記事では、現役の米農家経営者として、農業経営4年間の実体験をもとに「今すぐ取るべき行動」を具体的にお伝えします。
「毎年安定する農家」になるためには「依存」から抜け出す
問題の本質は、「米価に経営を依存している状態からいつ抜け出すか」です。
米価が高い今、多くの農家が潤っています。しかし、ここで立ち止まって考えてほしいことがあります。2024年から続く米価高騰の背景には、猛暑による不作、インバウンド需要の増加、備蓄米の放出遅れなど、農家自身の努力とは無関係な要因が積み重なっています。
供給量の正常化、消費者の節約志向、輸入米の流通拡大——これらの要因が重なれば、今の高値は一時的なものとなるでしょう。
多くの米農家が価格変動に振り回される3つの原因
原因1. 販路が「農協(JA)任せ」になっている
多くの米農家が、収穫したお米をそのままJAに出荷しています。それ自体は悪いことではありませんが、問題は「価格の決定権が自分にない」という点です。
JAを通じた出荷では、概算金(仮払い金)の水準によって収入が大きく左右されます。米価が高騰している今でも、概算金の設定次第では農家が受け取る金額が市場価格より低くなることもあります。
価格を自分でコントロールできない状態では、どれだけ良いお米を作っても、経営は市場に振り回され続けます。
原因2. 稲作の「単一経営」に依存している

農林水産省のデータによれば、稲作単一経営では農業所得がマイナスになっているケースが多く、特に5ヘクタール未満の農家では慢性的な赤字状態です。一方、稲作に加えて別の作物や事業を組み合わせた「複合経営」の農家は、農業所得が大きく改善されています。
お米だけに頼る経営は、米価が下落したときのリスクを直撃で受けることになります。
原因3. 「稼げている今」に投資や準備をしていない
米価が高い時期に農家が陥りがちなのが、「今が良いからこのままでいい」という思考停止です。
私自身昨年の米価を見て、正直「これが続けばいい」と楽観的に考えていた部分もあります。しかし、稼げているうちにしか、投資も準備もできないという面も農業経営の鉄則です。
これで解決方法!?|米農家が見直すべき経営基盤とは
では、具体的にどうすればよいのか。答えは「今の収益を次の経営基盤を作るための原資にする」ことです。
高値が続く今は、農家にとって「資金が手元に残りやすい」チャンスの時期です。この余裕資金を、次の下落期を乗り越えるための体力づくりに使うことが、長期的に安定した経営につながります。
直販・自販路の開拓
米価が高い今こそ、自分のブランドでお米を売るための準備を始める絶好のタイミングです。消費者が「良いお米にお金を払う」意識が高まっている今、農家直販のニーズは高まっています。
私自身も3年前からSNSと自社ECサイトを使った直販に取り組み始めました。最初は月に数件だった注文が、今では定期購入のお客様も増え、JAへの出荷一辺倒だった頃と比べて手取り収入が大幅に改善しています。
経費の見直しと節税対策
収益が増えたときこそ、経費の使い方を見直す機会です。農業者年金への加入、農業経営基盤強化準備金(積立型の節税制度)の活用など、今のうちに仕込んでおける制度は数多くあります。
「稼いだ分だけ税金も増える」ではなく、「稼いだ分を賢く将来に回す」——この発想の転換が経営を変えます。
作付けの多角化・品種の見直し
単一の銘柄米に依存するのではなく、飼料用米や加工米、特定ニーズに応える品種(低農薬、高タンパク、もち米など)への作付け分散を検討しましょう。また、令和7年度以降の飼料用米補助金は段階的に引き下げられる見込みのため、品種選択の見直しも急務です。
具体アクション:今すぐできる5つのステップ
- 自家販売チャネルを1つ開設する
農家直販はまず「1つのチャネル」から始めれば十分です。BASE、食べチョク、メルカリShopsなど初期費用ゼロで始められるサービスも多い。1つ作るだけで、JAに頼らない「価格決定権」が生まれます。 - 農業経営基盤強化準備金を今年から積み立てる
この制度は農業の交付金を将来の農地・設備投資のために積み立てることができ、積み立てた金額を損金計上できる節税効果があります。高収益の年に積立を始めることで、税負担を減らしながら将来の資金を確保できます。 - 農機具・設備のメンテナンス計画を立てる
収益が出ている今こそ、老朽化した農機具の修繕や更新に着手すべき時期です。故障は必ず農繁期に起きます。資金に余裕があるうちに手を打つことで、最悪のタイミングでの資金ショートを防げます。 - 収支記録をクラウド管理に移行する
農業経営の見えない弱点のひとつが「どこで儲かってどこで損しているかわからない」状態です。クラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)を使えば、田んぼごとの収支や品種ごとの利益率が可視化されます。経営改善の第一歩は「現状把握」から。 - 農業仲間とのネットワークを広げる
農業経営の情報は、インターネットよりも「同じ立場の農家同士の会話」から得られることが多いです。SNSで農業者コミュニティに参加したり、農業経営塾に顔を出すことで、補助金情報や販売先情報が自然と集まるようになります。
まとめ:高値の今こそ「次の農業」を仕込む
2026年春現在、米価は依然として高値水準。これは農家にとって間違いなくチャンスです。しかし、この状況を「当然のこと」として過ごすか、「次の下落に備えた布石を打つ」時期として活用するかで、数年後の経営状況は大きく変わります。
私自身、農業経営を始めた当初は「いいお米を作れば売れる」という思い込みがありました。しかし現実は違いました。作ることと、売ること、守ること——この3つがそろって初めて農業経営が成り立つのだと、実感を持って言えるようになりました。
米価が高い今こそ、農家として「攻め」と「守り」の両方に動ける唯一の時期かもしれません。
「今年は儲かったな」で終わらず、来年・再来年も安定して農業を続けられる経営基盤を、今のうちに着々と作っていきましょう。
田んぼに立てば、どんな年も土はそこにあります。変わるのは市場の風向き——それに左右されない農家になることが、長く農業を続けるための一番の「技術」だと私は思っています。












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